1日外出録ハンチョウの面白さは、圧倒的に共感できるメッセージにある
今回も、『1日外出録ハンチョウ(2) (ヤングマガジンコミックス)』から学んでいきたいと思います。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
第15話では、大槻の美味い店とそうでない店の見分け方が披露されます。
まず、盛り塩がある店はポイント高めとのこと。
盛り塩とは、以下のようなものです。
験を担ぐところが、店主のこだわりを感じさせるんでしょうか。
しかし、大槻の基準では盛り塩が埃をかぶっている場合は途端にグレーになるとのこと。
そういう縁起ものがあってもそれをまめに管理できていないところが、料理の質にも影響しているのではと考えているのかもしれません。
この本の原作の萩原天晴氏の、こういう共感できるポイントをピックアップできる視点がすごいです。
例えば人間でも、立派なスーツを着ていても、靴が汚れていたりすると、途端にイメージダウンになってしまいます。
そういうポイントの注目の仕方が、妙に納得できるんですよね。
そして大槻は、大事なのは食べログやぐるなびの評価ではなく、自分の目で見たものと言います。
これは確かにその通りでネットの評価は意図的に操作される場合もあり、必ずしも正しく点数がつけられているとは限らない、ということはあり得ます。
また評価が正しくつけられたものであっても、評価した人と自分の価値観が同じとは限りません。
例えば、小さな子供を連れていって「居心地がいい」店と、デートに使える「居心地がいい」店は同じにはならないはずです。
そうは言ってもレビューは大体のばあいは参考になるので、全て鵜呑みにせず自分の価値判断基準も常に忘れないくらいのバランスがいいのかもしれません。
『1日外出録ハンチョウ(3) (ヤングマガジンコミックス)』に収録されている第17話は、個人的にかなり好きな話です。
この話では大槻は、何が食べたいか決まっていないです。
大槻の中では、各国脳内大槻によるグルメ首脳会談が開催されます。
もう、この設定が1本取られたなと思います。
どの料理を食べたいかと迷う気持ちを、擬人化しているわけです。
善意の天使と、悪意の悪魔が具現化する話は昔からありますが、こういうもっと具体的な欲求を擬人化するという手法は、いろいろ応用がきいていいかもしれません。
そういえば、このマンガでは、睡眠欲が擬人化されていましたね。
性欲の擬人化するマンガは面白そうだけど、見たことがないのは、やはり表現が難しいからでしょうか。
閑話休題。
安定感のあるイタリア料理や中華料理、ピンとくる和食、それ以外にもフランスやトルコなど各国の脳内大槻が喧々諤々と議論しますが、なかなか決まりません。
かわいそうなのがイギリスで、「フィッシュ&チップス」と叫びますが、他の脳内大槻に「イギリスは静かにしていろ…!」と言われる始末。
しかし、この冷遇されているイギリスの脳内大槻が、17話の影の主人公だと思っています。
確かにフィッシュ&チップスってなぜかそんなに惹かれないし、そもそも扱っている店があるのか?という印象があります。
この「フィッシュ&チップスって有名だけど、みんな一度も食べたことないよね?」という圧倒的に共感できるメッセージがこの話の大事な要素になっています。(個人的には)
迷う大槻に自分がどこの国の料理か分からない脳内の少年大槻から「ミッシュマッシュ」の提案がされます。
それは、以前大槻が読んだ『danchu』に掲載されていたものです。
ちなみにこの雑誌は『dancyu』という雑誌のパロディなんですね。
元ネタが分かっていませんでしたが、なるほどこういう雑誌を大槻は愛読しているんですね。
アメリカ大槻の
何を食べるかわからん時は…何かわからんものを食べる…ということか…!
という分かったような分からないような、でも説得力のある台詞を受け大槻はミッシュマッシュに挑戦します。
そして、無名だった脳内の大槻少年がブルガリア大槻に任命されます。
ここには、「ミッシュマッシュという(おそらくほとんどの人が初耳の)どこの国のものか分からない料理」をオチに持ってくる原作の萩原氏のセンスの良さが光っています。
きっと、多種多様な料理を食べられているんでしょうね。